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散策ノススメ その12
格子のある風景(1) 〜ゆるやかにつなぐ 「うち」と「そと」〜
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最近、書店に行くと『木のすまい』『古民家の再生活用』を扱った書籍を頻繁に見かけるようになりました。「風土と時間がつくる価値」「伝統的な住い」に関心を持つ人が増えてきたのでしょうか。今は読書の秋、これらの本を手にとって読んだり、実例を見に出掛けたりするのもいいでしょう。
さて、伝統的な住いと聞くと、「茅葺屋根の家」や「格子のある町家」をイメージする方が多いかと思います。今回は歴史的町並みの要素のひとつ、格子についてです。
格子は細い角材を縦横に組み合わせてつくった建具です。蔀戸の別称でもあります。格子は平安時代の寝殿造り(貴族の住宅)に初めて現れた建具です。格子が町家の正面に出てくるのは、早い時期だと幕末から、多くは明治になってからです。それまで商売をしている家はスリアゲ戸や蔀戸を跳ね上げて、正面を全面開放するのが一般的な姿でした(図1)。意外に思うかもしれませんが、格子が連なる町並みは、厳密に言うと江戸時代ではなく、明治以降に徐々に出来上がったというのが通説なのです。
この、開放的な店が後に商売をやめ「しもた屋」となりますと、戸を降ろしたままでは室内が暗くなり、上げれば戸締まりが大変なため、格子をはめ込んで通風と採光をはかるようになります。これが町家正面の格子の始まりだといわれています。ただし、商売をやめた町家のみが格子かというとそうでもなく、京都のように家の職業と格子の意匠を結びつける独特の用法があることから、商売をしている町家でも使われるようになったと考えられます。
格子は、風や光を通し、視線を遮る効果があります。内側の戸を開け放しても、外から室内を一望することは困難です(写真1)。一方、中にいると風や光とともに往来のざわめきが聞こえてきます(写真2)。つまり、格子を入れることで、室内にいながら屋外の様子を感じ取ることができるのです。
完全に室内と室外を遮断せず、ゆるやかにつなぐ建具、格子。大宇陀には今でも格子を持つ家が多く残り、部屋の性格や造られた時代により、展開していることが読み取れます。
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図1 関町の玉屋(正面を開放した室内から見た風景)
写真1 格子越しに見る室内
写真2 格子越しに見た外
参考文献=『日本の家 空間・記憶・言葉』中川武著 TOTO出版2002年6月、『さがしてみよう日本のかたち』立松和平 文・日貞男 写真 山と渓谷社 2003年2月、『建築用語図解辞典』橋場信雄 理工学社1970年2月、『風土が生んだ建物たち』マガジントップ編 山海堂 1999年10月
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