春の陽気に誘われて、そこかしこに咲く花を眺めながらの散策が楽しい季節となりました。大宇陀の場合は建物も魅力的ですから、何の気なしに眺めていると「おや?」と足をとめることがあります。建物のところどころに見られる加工痕です。
写真1はひとつの事例です。この加工痕から、この部分に何があったのかを想像します。垂直方向に木がはめられた跡があり、むき出しになったすだちの部分や格子の下端が斜めに削られていることから、破風があったことがわかります。変更前の形は別の建物(類例といいます)から推測するわけですが(写真2)、全く同じではないにしろ、写真1の建物には家の脇に門塀があり、破風がついた式台玄関があったことを現況から推測することができるのです。
木材は建材の中でも比較的加工がしやすいため、建物が完成した後でも手を加えることができます。足元が腐ったため柱の下側だけ交換したり、壁の増設・撤去・柱を増やす・減らすというふうに間取りを変えたりと、石造・コンクリート造・レンガ造に比べて大胆な改造が可能です。
写真1のような破風の撤去以外にも、庇を高くするために桁をかさ上げしているものや、正面の改造に伴い途中で桁を切断して一部後退している桁もあります(写真3)。
真新しいものの姿もきれいですが、年数を重ねるごとに落ち着き、味わいがでてくる木材。時間の変化とともに所有者の要求が変われば、それに併せて変化をします。その際に木材全部を取り替えてしまうと、これまでの姿がわからなくなってしまいます。けれども必要最低限の加工であれば、以前の姿は加工痕というかたちで、改造前の状態を伝えています。
木材は時間とともに表面が変化し、増改築の情報を刻みます。こうした情報を読み取る能力がつけば、町を歩くときに違った楽しみ方ができるかと思います。
次回は、改造に伴って「転職」する木材のお話です。お楽しみに。
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