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散策ノススメ その18
土壁の魅力
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春の香りがほのかに漂い、冬眠していた動物たちが土の中から出てくる時期となりました。土は建築でも重宝されており、壁、窓、屋根、土間、竈、炉等に使われています。今回は土壁についてです。
壁、特に屋外と屋内の境にある外壁は、快適な室内環境を作り出すために日射・視線・風・音などを遮断する役割を持っています。壁の施工方法には水を含んだ材料を用いて形をつくり、乾燥を待つ工法(湿式工法)と、パネル等の板材を用いて釘・接着剤・ねじ等で取り付ける工法(乾式工法)があり、土壁は湿式工法に分類されます。この土壁の中でも、竹で下地をつくった小舞(すだち)壁が日本の伝統的な壁工法とされています。
小舞壁は、図1のような手順で作られます。地域により[4]〜[6]の工程が異なりますが、各工程で乾燥、養生が必要です。昔ながらのやり方ですと、数か月前から土をこねて藁スサを入れ発酵させたものを塗りますので、手間と時間をかけて作られる壁であることがわかります。
重量があり、手間もかかりますが、土壁にはいいところがいくつかあります。例えば室内の温度変化が緩やかな点。外側で急激な温湿度の変化があっても、土壁は徐々に室内変化を伝えるため、物を保存する環境に適しています。土は解体後も別の場所に再利用できますし、防火性能が高いため、火を使う箇所や火を防ぎたい場所に利用されています。火が燃え移りやすい軒裏に漆喰が塗られているのも延焼を防ぐためです。軒裏の形は波型、直線、垂木や木組みの形、いろいろあって楽しめます。
また、上塗り仕上げも多彩で、周辺でとれる土や混ぜる粉の色(ベンガラ等)によりその土地特有の色が反映されます。大宇陀の町並みには、土仕上げ(明るい黄土色の壁)、白漆喰、黒漆喰、あさぎ漆喰(あさぎ土を用いた淡い青緑色の壁)の壁が見られます。以前連載で取り上げた袖壁と虫籠窓も含め、土が醸しだす彩と手わざの賜物(写真1)を眺めながら、町並みを散策してはいかがでしょうか。
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図1 土壁の工程 [1]竹を組む(下地)→[2]土を塗る(荒壁塗)→[3]壁の反対側を塗る(裏返し塗)→[4]壁の中にある木材のねじれによるひび割れを防ぐ作業(貫伏せ)→[5]塗りの厚さ決定(墨出し)→[6]木との境目の補強(布連・ひげこ打ち→チリ廻り・底埋め塗)→[7]中塗り→[8]上塗り(仕上げ)→[9]養生(乾燥)→[10]手入れ(メンテナンス)
写真1 手の込んだ軒裏の漆喰
参考文献=『建築大辞典』彰国社/1993年6月、『建築講法(第三版)』/内田祥哉 編/市ヶ谷出版社/1996年2月、『土壁・左官の仕事と技術』佐藤嘉一郎 佐藤ひろゆき 編/学芸出版/2001年2月
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