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散策ノススメ その17
内と外の接点、玄関考
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間もなく節分です。イワシと柊の飾りを見かけると、家族全員で「鬼は外、福は内」と掛け声にあわせて豆撒きをしたことを思い出します。今回は内と外の接点、玄関についてのお話です。
私たちは普通、家に上がるときは履物を脱ぎます。日本ではごく一般的な「履物を脱いで家に上がる」風習は世界規模でみると少数派で、韓国や中東のイスラム文化圏、カナダ・北欧の一部で確認される程度です。日本では履物を脱いだり履いたりする正面の出入口を「玄関」と呼び、住宅の中でも日本独特のものと認識されています。
「玄関」という文字は、鎌倉時代末の「建長寺古図」に見られます。もとは禅宗の「玄妙(奥深く微妙)な道理の入口」という意味で使われていました。玄関は、公式の出入口として室町時代以降の禅宗寺院・武家住宅に現れます。江戸時代は式台(写真1 玄関の前に設けられた板敷きの部分をいい、「色代=送迎の挨拶をする場」が語源とされています。)を構えた地位の象徴としての出入口をさし、僧侶・神官・貴族・町村役人・医師など格式のある家に設けられました。
大宇陀の町並みを概観すると、出入口がひとつの家と、複数の出入口を持つ家とがあります。複数の出入口を持つ家にも、門をくぐって式台玄関から座敷へ上がるタイプと、正面に座敷玄関と通常の出入口を持つタイプがみられます(写真2)。前者の中には、門を塀に変えてしまったものもあり、それほど数はありません。後者の座敷玄関の幅は間口が1間〜半間ぐらいで、間口の幅によりさまざまな建具がはめられています。
式台玄関も座敷玄関も、客間や仏間等に直接行けるようになっていて、慶事・弔事等の特別なときに使う点が共通しています。
かつては格式のある家にしかなかった玄関も、現代では一般化し、ほとんどの住宅で使われています。ところが、座敷玄関を持つ家の中には、普段利用する出入口ではなく特別なときに使う出入口を「ゲンカン」と呼ぶ例があります。伝統的な建物に残る呼び方から、本来の玄関の性格を感じ取れるという点が興味を引きます。
町並みを眺めながら、日常生活空間と接客空間の使い分けに考えを巡らせてみてはいかがでしょうか。
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写真1 式台玄関(重要文化財片岡家住宅)
写真2 通常の出入口、手前が座敷玄関
参考文献=『建築大辞典』彰国社/1993年6月、『住計画論』/本間博文・初見学 編/日本放送協会出版会/2002年3月、『アジア都市建築史』布野修司 編/昭和堂/2003年8月
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