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散策ノススメ その3
オモテとウラの「水際の風景」
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今回は大宇陀の歴史的まちなみを特徴づけるものとして、宇陀川・前川の話をします。
宇陀川はかつて、城下町を護るための「堀」としての役割を担っていました。現在でも宇陀川に架けられた橋を渡ると、町に入った、外へ出た、と強く認識することができます。宇陀川はこのように城下町の名残を示すと同時に、自然を身近に感じさせる魅力ある景色を演出しています。(写真1)
また、大宇陀の町並みの中には「前川」と呼ばれる水路があります。この水は万六の取水堰から引き込み、福祉会館の北までは家の裏側を通り、拾生町と上新町との境から道路側に出ていきます。水のわかれから水路が分岐し、それぞれ下茶の掘割から宇陀川へと流れています(地図1)。当初、前川は道の中央を流れていましたが、後に両脇につけかえられたと考えられています。
町並みの中にある水路の用途を見てみると、南から北へ流れる前川の場合は生活・防火用水を供給するため、東西方向に走る水路は主に排水処理のため整備されています。排水路との立体交差を用いて給水量を調節する場所(写真2)や、火災時に水をせき止めるために板をはめる溝等、前川には様々な工夫が見られます。水路の形や周辺の状況から、その用途や目的を考えたり、水の行方を追って歩いてみるのもいいでしょう。
町並みを歩いていると、前川の水を汲んで鉢植えの水やりや、道路の水打ちをする姿を目にします。また、すぐ傍でせせらぎの音が聞こえる「音風景」も、大宇陀の町並みが持つ心地よさだと思います。何気ないことですが、こうした生活感や環境を大切にしたいものです。
表通り沿いの前川、家の裏を通る水路と宇陀川。水路の位置から町場の成立時期・その用途・工夫を読み取れることと、さりげない生活感が相まって、オモテ・ウラの「水際の風景」が興味深いものとなります。前川と宇陀川は、町並みの魅力を増幅する大切な要素なのです。
現在、宇陀川も前川も、地域の方の努力により美しい景観が維持されています。にもかかわらず、水に混ざってゴミが流れていることがあります。特に前川は生活に根ざした水路ですから、周辺で暮らす人に迷惑がかかることを念頭に置き、互いに心地よい暮らし・景色を享受できるよう心掛けたいものです。皆さんのご協力、よろしくお願いします。
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写真1 宇陀川
写真2 立体交差。余分な水は下の水路へ落ち、宇陀川へ流れる。
【参考文献】『せせらぎと手わざの町 大宇陀・松山〜松山・神戸地区伝統的建造物群保存対策調査報告書〜』/大宇陀町教育委員会/2001年3月、『大宇陀町文化財調査報告書第5集宇陀松山城(秋山城)跡(遺構編)』/大宇陀町教育委員会/2002年3月、『都市史図集』/都市史図集編集委員会/彰国社/1999年9月
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